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更新日:2022.05/23(月)

自治体DXが抱えている5つの課題

自治体DXが抱えている5つの課題

DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提言されました。

直訳すると「デジタルによる変革」という意味になり、一般的には「ICTの浸透によって、多くの人々の生活をより良い方向に進化させる」ことを指す言葉です。

その中でも
【自治体DX=自治体においてデジタルの力で住民の利便性や職員の働き方を向上させること】
という意味をもちます。

地域住民の生活と密接に関わりがある自治体DXは、とりわけ重要度が高いものと考えられていますが、多くの課題を抱えており簡単に推進することができていません。

本記事では、自治体DXが抱えている5つの課題に焦点をあてつつ、DXの実現により社会がどのように変革するのか、具体例を用いて解説します。

自治体が抱えている課題


自治体DXを推進するにあたり、自治体が抱えている大きな課題を5つ紹介します。

  • デジタル人材の不足
  • 厳しい財政事情
  • 紙文化をはじめとした古い慣習
  • 各省庁・各自治体ごとに異なるシステム
  • マイナンバーカード普及の遅れ

自治体DXの実行には、これらの課題とどう向き合って取り組むかが重要です。

それぞれの課題について具体的に解説します。

 デジタル人材の不足


DXの推進にはITリテラシーやプログラミングの知識がある「デジタル人材」が不可欠ですが、少子高齢化社会により働き手が少なくなっている日本では、デジタル人材の確保は大きな課題となっています。

特に、自治体DXを推進する地方公共団体においては、専門職という形でのデジタル人材を確保するケースはほとんど無く、また一般職員にITスキルが身につきにくいという環境から、デジタル人材が不足していると言われています。

各自治体で使用しているシステムの構築等は外部のSE等に外注することがほとんどですが、自治体で勤務している職員一人一人のITスキルの底上げもDXの推進には欠かせません。

デジタル庁では、2021年12月時点で約600人いる職員のうち、約3分の1の200人を民間企業から採用しています。

今後は自治体においても、デジタル庁が行っている「デジタル人材」を民間企業から採用するような積極的な人事も必要になるかもしれません。

 厳しい財政事情


多くの自治体は、厳しい財政事情の中、市区町村運営を行っています。

限られた財源は、即効性があるか不確かな自治体DXに充てるよりも、現在表面上の課題として現れている業務に充てられるケースも考えられます。

特に、自治体の長や幹部が自治体DXに無関心の場合は、現場の声としてDXの推進を訴えたとしても、なかなか前に進めることができない実情もあります。

政策決定権を持つ自治体の上層部は、自治体DXの推進によってもたらされる豊かな社会を認識することが重要です。

 紙文化をはじめとした古い慣習


紙文化をはじめとした古い習慣も自治体DX推進の障害となっています。

新型コロナウイルスの感染者情報について、FAXを使用してやり取りしていることも話題になったように、日本の自治体では紙文化が根強く残っています。

紙での管理は、紙からデータへの変換時にミスが起こったり、紙の資料を探す時間がかかったりと、業務効率悪化の温床です。

自治体が定める多くの申請様式で求められている押印の廃止等含め、紙文化から脱却し、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)を活用するなどの方法が求められています。

 各省庁・各自治体ごとに異なるシステム


現在各省庁や各自治体ごとに様々なシステムが導入されていますが、それぞれのシステムが連携しておらず、独自のサーバー、OS、アプリを利用していることが、コスト増や利便性の悪さの原因と言われています。

この点については、総務省が示した「自治体DX推進計画概要」の中で『自治体の情報システムの標準化・共通化などデジタル社会構築に向けた各施策を効果的に実行していくためには、国が主導的に役割を果たしつつ、自治体全体として、足並みを揃えて取り組んでいく必要がある。』と述べられています。

地方自治体がガバメントクラウド(政府が所有する膨大なデータを一元的に管理・運用するためのクラウドサービスの利用環境)を活用し、住民基本台帳・住民税・児童手当という17の分野で、国が定めた標準仕様の基幹業務システムを利用する取り組みが、国によって支援されています。

 マイナンバーカード普及の遅れ


2016年から導入されたマイナンバーカードの普及は、住民の利便性の向上や業務効率化といった点から、国はデジタル社会の基盤となるものと位置づけています。

国は2023年3月末までに、ほとんどの国民がマイナンバーカードを保有していることを目標としており、マイナポイントの付与や発行窓口を休日に開くという施策を支援しています。

しかし残り1年の時点においてもマイナンバーカードの普及率は40%程度となっていますので、国の想定は達成できない可能性が高そうです。

今後、仮に7割の方がマイナンバーカードを取得したとしても、残り3割のために一律の施策が取れないという事態が起こりますので、業務効率化の観点からも、ほぼすべての国民がマイナンバーカードを所有することが、自治体DXの推進には不可欠です。

自治体DXを実行するとどんな課題が解決するのか?


自治体DXを実行することで解決される課題について、大きく3つの観点から紹介します。

  • 住民サービスの向上
  • 職員の業務効率化・多様な働き方
  • システム統一などによる利便性向上

それでは以下で順に解説します。

 住民サービスの向上

まず解決される課題としてあげられるのが、住民サービスの向上です。
国が掲げる『誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化』の観点からも、自治体DXにおいて大きな意味を持つものが住民サービスの向上です。

すでに各種申請業務を効率化するための「ワンストップ窓口」の導入が行われている自治体もあります。

これは、手続きごとに窓口が分かれていたものを、市民課などの窓口で一元して処理するものです。

例えば転入・転出などに伴う「住民票の異動」「国民健康保険」「介護保険」「こども関係」等の手続きについて、申請者の情報を一元管理することで、住民の負担を少なくできます。

さらに自治体DXが推進されれば、マイナンバーカードの活用により、これまで市区町村の窓口に提出する必要があった書類等も、自宅にいながらスマホやパソコンで申請することが可能になるでしょう。

役所の窓口に出向く手間や、到着してからの待ち時間を別のことに使うことができ、住民サービスの向上が期待できます。

少子高齢化が進む日本においては、今後市区町村としての存続が危ぶまれる自治体も多く存在します。

役所という建物のハード面が無くても持続可能な住民サービスができる環境が求められています。

 職員の業務効率化・多様な働き方


自治体DXを推進する側の自治体職員にとっても、DXの恩恵は大きいです。

業務効率化の観点では、保育所の入園決定業務にAIを導入している自治体も多くなっています。

それまでは1,000時間要していた入園決定業務が、AIを活用することでほんの数秒でほぼ同じ結果が得られたという事例もあります。

削減された時間は、人件費の削減につなげることや、他の施策を立案する時間に充てることも可能です。

多様な働き方の一例としては、DXを活用したテレワークがあります。

国も「自治体DX推進計画」においてテレワークを重点取組事項として掲げています。

地震・台風といった災害時にも継続的な自治体運営ができるという観点や、職員のプライベートな事情(育児・介護など)にも柔軟に対応できる点で、テレワークが多様な働き方の一環として期待されています。

 システム統一などによる利便性向上

各省庁・各自治体ごとに異なるシステムを使用していることが、自治体が抱えている課題という点をお伝えしましたが、国や地方が協力して画一的なシステムを統一することができれば、利便性は向上します。

現在は同じ手続きであっても、多くの自治体で異なるシステム・方法が採用されています。

引っ越しで居住地を移る住民や、複数の自治体で事業をしている事業者にとって、利便性が高いとはいえない状態です。

このような問題を解決するために、自治体の情報システムの標準化・共通化は、自治体DXを進めるうえで欠かせない要素です。

個々の自治体がDXに取り組むことも大切ですが、利便性の向上のためには、横断的に「国と地方自治体」「自治体間」が連携して、標準化・共通化をめざすことが必要です。

自治体DXで課題を解決した事例3選

この章では、具体的に自治体DXで課題を解決した事例を3つ紹介します。

 東京都港区【ぴったりサービス・汎用的電子申請システムの積極的な活用】

東京都港区は、ぴったりサービス・汎用的電子申請システムといった、オンラインで行政手続きができる方式を段階的に導入しました。

引用:自治体DX推進手順書参考事例集 P38 東京都港区広報誌

オンライン化は、令和2年度に約100の手続きで実施されており、令和3年度以降も申請数が多い手続きから順次拡充しています。

また、2022年8月からは、転入や転出に伴う手続きをデジタル化する「窓口総合支援システム」の導入も予定されており、ICTを最大限に活用した利便性の高い住民サービスが期待されています。

 愛知県瀬戸市【電子決裁機能付き文書管理システムの導入】


職員の業務効率化の観点から愛知県瀬戸市で導入された、電子決裁機能付き文書管理システムを紹介します。

自治体の業務において多くの時間を取られ、業務効率悪化の原因となるのが、紙書類の取り扱いです。

瀬戸市では、電子決裁システム導入による事務のペーパーレス化を推進し、行政文書は「ファイリングシステム」という大分類・中分類・小分類に仕分けされた書庫棚を活用することで、事務の効率化を図っています。

将来的には文書の電子管理・電子決裁への完全移行を目指しており、これが実現すると文書検索の時間が大幅に削減され、文書管理が容易になることで情報が一元管理でき、さらなる事務の効率化が期待されています。

引用:自治体DX推進手順書参考事例集 P30

滋賀県【市町との共同による行政手続オンライン化システムの導入】


3つ目に紹介する自治体DXの事例は、滋賀県で行われた市町との共同による行政手続オンライン化システムの導入です。

県と市町が共同でシステム調達や利用に取り組むことで、職員の事務負担や自治体の費用負担の軽減、ひいては住民の利便性向上を目的とするものです。

令和2年度に県主導で県内の14市町と課題解決のための共同研究事業を実施しました。

住民が各種手続きをする際に提出する必要書類の判断が難しいことや、市町側も住民の問い合わせに対応する時間が多く、事務負担が増大していたことがきっかけです。

モデル事業として、令和2年10月から
転入届など、引っ越しの際に必要となる手続き等について案内するシステム
申請書等を電子データで作成し、オンライン申請できるシステム
上記を試験運用しました。

今後は、さらに住民にとって使いやすい手続きのインターフェースを構築するとともに、ワンストップでの行政手続きを目指しています。

引用:自治体DX推進手順書参考事例集 P34

まとめ

今回は、自治体DXの推進が求められている今、自治体が抱えている5つの課題という点に焦点を絞って解説しました。

紹介した5つの課題は下記のとおりです。

  • デジタル人材の不足
  • 厳しい財政事情
  • 紙文化をはじめとした古い慣習
  • 各省庁・各自治体ごとに異なるシステム
  • マイナンバーカード普及の遅れ

このように、自治体DXの推進には自治体側の課題も多くありますが、社会的な背景やマイナンバーの普及など、住民側の姿勢も重要であることがわかりました。

多くの課題が簡単に解決できるものではありませんが、紹介した事例のようにデジタル化の推進により、住民の利便性向上や職員の就労環境が改善したという自治体もあります。

少子高齢化の加速が進み、労働人口が今後ますます減少する日本においては、マンパワーで多くの業務をこなしていくという従来のスタイルから脱却し、デジタルを上手に活用することが求められます。

自治体DXが推進されることにより、生活がより豊かになる社会を一人一人が想像し、まずは身近にできることから一歩ずつ取り組んでいく姿勢が求められています。

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